犬の歯周病治療で麻酔を使う理由とは?|麻酔の必要性とリスクについて解説

犬の歯周病は進行すると歯のぐらつきや痛み、口臭だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼします。
早期に治療することがとても重要ですが、治療には全身麻酔が必要になります。
「愛犬の歯周病を治療したいけれど、麻酔が心配」という飼い主さんも多いことでしょう。
今回は犬の歯周病治療に麻酔が必要な理由や、麻酔にともなうリスクについて、わかりやすく解説します。
大切な愛犬の健康を守るために、不安を少しでも解消していきましょう。
ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
犬の歯周病とは
歯周病は、歯垢の中の細菌によって、歯肉(歯茎)に炎症が起こっている状態です。
歯垢は細菌や食べかすなどが混ざり合ったもので、歯に付いているネバネバとした汚れのことです。
歯垢を放っておくと歯肉に炎症が起き、歯と歯肉の間のすき間が深くなっていきます。
このすき間は歯周ポケットと呼ばれます。
歯周病が進行していくと
- 口臭が強くなる
- 歯がぐらつく
- 目の下が腫れる
- くしゃみや鼻水が出る
といった症状がみられます。
また、歯垢の中の細菌が心臓などの臓器にも影響を及ぼすため、注意が必要です。
犬の歯周病は治療したほうがよい?
犬の歯周病は早めに治療することが大切です。
歯周病の原因である歯垢を放置しておくと、歯石に変化してしまいます。
歯石の表面はザラザラしているため、新たな歯垢が付きやすくなり、歯周病をどんどん悪化させます。
しかし、歯石は歯磨きでは取り除けません。
歯石はスケーリングと呼ばれる処置で、物理的に除去する必要があります。
歯周病の進行具合によっては、抜歯が必要になる場合もあります。
歯周病治療に全身麻酔が必要な理由
無麻酔で行う歯周病治療によるトラブルが多く報告されています。
日本獣医師会では、必ず全身麻酔をかけて、獣医師が処置を行うことを推奨しています。
全身麻酔をかける理由は、大きく3つあります。
安全に治療を行うため
歯周病治療では、超音波スケーラーという、先端が鋭利な器具を使用します。
犬が少しでも動いてしまうと、口の中を傷つけてしまうおそれがあり危険です。
また、歯周病が重度の犬では、あごの骨がもろくなっていることがあります。
無麻酔で無理に治療を行うと、あごの骨折につながりかねません。
しっかりと治療を行うため
無麻酔の処置では、歯周ポケットの中まで掃除できないため、歯周病のリスクは解消されません。
全身麻酔下でのスケーリングなら、歯周ポケットや口の奥まで徹底的にきれいにすることが可能です。
また、口の中を隅々まで確認できるため、見えにくい部分の汚れも取り残さず、より確実な処置が行えます。
無麻酔では抜歯もできません。
抜歯が必要な歯をそのままにしておくと、痛みや病気の原因を残すことになります。
犬の苦痛を減らすため
麻酔をかけずにスケーリングを行うと、犬に強い痛みや恐怖感を与えてしまいます。
治療後に歯磨きなどのデンタルケアを嫌がるようになったり、口元を触らせなくなったりすることにつながるおそれがあります。
今後のケアのためにも、犬に負担の少ない方法で処置を行うことが大切です。
全身麻酔のリスク
全身麻酔をかけることで、安全にスケーリングを行えることはご理解いただけたかと思います。
しかし、麻酔に対して不安を感じる方は少なくないでしょう。
犬に全身麻酔をかける際のリスクについて解説します。
臓器への影響
麻酔は適切に行えば安全ですが、体にある程度の負担がかかるのも事実です。
麻酔は血圧や心拍に影響するため、心臓病の犬では慎重な管理が望まれます。
特に犬は、高齢になると心臓に問題が出るケースが多いため、注意が必要です。
また、麻酔で使う薬の多くは肝臓で分解されます。
肝臓が悪い犬では薬をうまく代謝できず、麻酔が効きすぎたり、覚醒が遅延したりすることがあります。
このほかに、麻酔をかけた際に特に影響を受けやすい臓器は
- 肺
- 腎臓
- 脳
です。
麻酔薬に対するアレルギー反応
人と同じように犬でも、麻酔薬に対するアレルギーが起こることがあります。
まれではありますが、重症化することもあるため注意が必要です。
アレルギー反応により
- 顔の腫れ
- 嘔吐
- 下痢
- 呼吸困難
といった症状がみられます。
アレルギーをもっている場合は、あらかじめ獣医師に伝えておくとよいでしょう。
誤嚥のおそれ
麻酔をかけると、犬は飲み込む力がなくなってしまいます。
胃の中に食べ物が残っている場合、麻酔をかけると嘔吐することがあります。
麻酔中に嘔吐してしまうと、吐いたものを飲み込むことができません。
嘔吐物が気管に入って、誤嚥性肺炎となる可能性があり、非常に危険です。
誤嚥を防ぐため、麻酔前には絶食が推奨されています。
特に麻酔に注意が必要な犬
麻酔リスクは、年齢や持病、犬種などによって異なります。
麻酔リスクが特に高くなるのは、以下のようなケースです。
- 高齢の犬
- 心臓病や腎臓病などの基礎疾患がある犬
- パグやフレンチ・ブルドッグなどの短頭種
高齢の犬では、臓器のはたらきが鈍くなっているため麻酔の負担が大きくなる可能性があります。
短頭種は呼吸器の構造が特殊なため、ほかの犬種よりも麻酔リスクが高くなっています。
麻酔前に行う検査の重要性
上記の麻酔リスクを最小限に抑えるために麻酔前に行うのが、全身の健康チェックです。
身体検査や血液検査などにより、麻酔をかけられる状態かどうかを確認します。
また、麻酔をかける際には犬の状態に合わせて、麻酔薬の種類や投与量は慎重に調整されます。
麻酔中のモニタリングも欠かせません。
心電図や血圧、呼吸などを常にチェックし、異常があればすぐに対応できる体制が整えられています。
こうした対応により、麻酔のリスクを大幅に減らすことができます。
もし麻酔についてご不安な点がある場合は、遠慮なく獣医師にご相談ください。
まとめ
犬の歯周病治療には、全身麻酔をともなうスケーリングが必要になります。
しかし、麻酔に不安を感じる飼い主さんは少なくありません。
麻酔前の検査や適切な管理を行うことでリスクは大きく軽減され、安全に処置を受けることが可能です。
歯周病治療や麻酔について気になることがあれば、どうぞお気軽に当院までおたずねください。
愛犬にとって最適なケアを一緒に考えていきましょう。
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