犬の歯科処置前の血液検査|血液検査の必要性を獣医師が解説

犬の歯周病は成犬の約8割以上に発生するといわれています。
動物病院で犬の歯周病を指摘されたり、歯科処置が必要といわれたことがありますか?
犬の歯周病の治療では、歯石や歯垢を取り除くために歯科処置を行うことがあります。
犬に歯科処置を行うには全身麻酔をかける必要があります。
そして全身麻酔をかける前には血液検査が必要です。
「歯周病なのに何のために血液検査をするの?」
「血液検査でわかることってどんなこと?」
このような疑問をお持ちの飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は歯科処置の前の血液検査の必要性について解説いたします。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の歯科処置前になぜ血液検査が必要なのか理解を深めていただければ幸いです。
犬の歯周病の歯科処置の前に血液検査を行う理由
犬の歯周病の歯科処置の前に血液検査を行う理由は全身麻酔のリスクを評価するためです。
全身麻酔には麻酔薬を使用します。
麻酔薬の代謝を行う腎臓や肝臓などの臓器の機能が低下していると薬剤が体内に残ってしまい、体の負担が大きくなります。
血液検査で全身状態を把握しておくことで、全身麻酔で起こりうるリスクに対しての事前準備ができますね。
血液検査でリスクが高いと判断した場合は
- 全身麻酔をかける前の点滴をしっかり行う
- 全身麻酔をかける前に酸素をしっかり吸入させる
- 全身麻酔に使う麻酔薬を工夫する
- 状態が悪くなった時に使う薬を事前に用意しておく
などの対応が可能です。
これらの対応は全ての全身麻酔で必要なことですが、血液検査で全身状態を把握しておくことでそれぞれの犬に最適な準備ができます。
血液検査でわかること

犬の歯周病の歯科処置前の血液検査でわかることは
- 炎症
- 基礎疾患
- 貧血
- 血液凝固異常
などがあるかどうかです。
それぞれについて解説いたします。
炎症
歯周病が進行すると炎症が起こります。
歯周病の初期には歯の周囲の局所的な炎症がおこります。
それが悪化して出血し、歯茎の血管に細菌が入って全身に回ることで全身性の炎症になることもありますね。
炎症が起こると白血球数やCRPと呼ばれる血液検査の項目が高値になります。
基礎疾患
血液検査では腎臓や肝臓などの臓器の状態を調べることができます。
犬が高齢になるほど臓器の異常は増えます。
歯周病の歯科処置は中高齢の犬で行うことが多いため、血液検査で臓器の異常が見つかることも多いです。
腎臓の異常を示す項目には
- BUN
- Cre
などがあります。
BUNは血中尿素窒素、Creはクレアチニンのことです。
腎機能が低下するとこれらの数値は上昇します。
肝臓の異常を示すのは
- ALT
- ALP
- AST
- GGT
などです。
肝臓に障害を受けるとこれらの数値は上昇します。
血液検査の数値次第では歯科処置よりも腎臓や肝臓の治療を優先する場合もあります。
貧血
貧血も全身麻酔のリスクを上げる要因の1つです。
貧血とは血液の中の赤血球の濃度が薄くなる状態です。
赤血球は酸素を全身に運ぶ役割を持ちます。
貧血状態では酸素がうまく全身に行き渡らず、麻酔をかけることで一気に酸欠状態に陥る可能性があります。
貧血の指標になるのは
- 赤血球数
- ヘマトクリット値
などです。
これらの数値が低ければ貧血状態である可能性が高いです。
血液凝固異常
歯科処置では歯石や歯垢を除去したり抜歯をするときに出血を伴うことがあります。
通常は出血を止める体の仕組みがうまく働いて出血は自然に止まります。
しかしその仕組みに異常があると血が止まらずに貧血になってしまいますね。
出血を止める機能に異常があることを、血液凝固異常といいます。
血液凝固異常があると歯科処置を行うリスクが高まるため、血液検査ではとくに重要な項目といえるでしょう。
血液凝固異常の指標になるのは
- TP
- ALB
- PLT
- APTT
- PT
などです。
TPはタンパク質、ALBはアルブミン、PLTは血小板でそれぞれ血液凝固に必要な成分です。
血液凝固異常があるとこれらの数値は低下することが多いですね。
APTTやPTは血液凝固にかかる時間を測る項目で、血液凝固異常があると延長します。
犬の歯周病の歯科処置前の血液検査でどんな病気が見つかりやすいか

血液検査で様々な異常を調べることができるということがお分かりいただけたでしょうか。
ここからは実際に歯科処置前の血液検査で見つかることが多い病気について解説します。
歯科処置前の血液検査で見つかることが多い病気は
- 慢性腎臓病
- 肝障害
などです。
これらの病気は犬が高齢になればなるほど発症率が高くなる病気です。
歯周病で歯科処置が必要になる犬は中高齢であることが多いため、必然的にこれらの病気を発症している確率が高くなります。
歯周病の犬は口臭や歯の痛みなどの分かりやすい症状を示すことが多いです。
しかし上記の病気は明らかな症状を示さないことも多く、歯科処置前の血液検査でたまたま発見されることがあります。
中には歯科処置よりも治療が優先されるべき病気があったり、全身麻酔をかけるにはリスクが高すぎる状態であることもあります。
歯科処置前の血液検査が必要な理由にはこのような側面もありますね。
まとめ
いかがでしたか?
犬の歯周病の歯科処置前の血液検査の必要性をご理解いただけたでしょうか。
犬の歯周病は口臭や歯の見た目から発見されやすい病気です。
歯科処置を受ける前の血液検査では飼い主様も気づきにくい病気を発見できる可能性があります。
また、全身麻酔前に犬の状態を詳しく把握しておくと麻酔のリスクを最小限に抑える準備ができますね。
当院では歯科診療に力を入れております。
当院でも歯科処置の前には血液検査を行っております。
犬の歯についてお悩みのことがありましたら、お気軽に当院にご相談ください。

